Novel

小説「君のそばに」はもり様の作品です。
Copyright © 2000 もり. All rights reserved.

君のそばに

1 現在・回想前
小学校を出て放課後、友達と一緒にかえらないで一瞬でも早くあそこに着くように僕ははしるんだ。
「ぬしさん」がいる「住まい」へ。
その住まいは、本当は僕のものなんだ。少し前は僕のおばあちゃんのだったけど、僕の誕生日にくれたんだ。なのに、
ぬしさんはかってに住みついちゃったんだ…。

大きな、大きな、そして綺麗な樫の木。これがね…。
「ぬしさん!こんにちは!!」
ぬしさんの住みかで、僕がおばあちゃんからもらったプレゼントなんだ。
それでね、僕が樫の木に向かって声をかけるとぬしさんが出て来てくれるんだ。でも、どこからぬしさんは来るのかな?
「…誠琴(まこと)。名前をいいかげんに覚えてくれないか?」
このぬしさん、実はね、妖精さんなんだ。
…ぬしさんの名前覚えて…ないや。確か、ラがついてたと思うんだけど…。
「ね、ね。ぬしさん、それよりお話の続き、聞かせてよ!ね、ね?」
ぬしさんとは、僕が樫の木に遊びに来た時に見つけたんだ。
「…俺が村を出て“オールフリー”に入って旅をするって所までだな。」
オレンジ色の帽子がすごく目立って、最初は人形が迷子になったのかな?と思ったら、妖精、ぬしさんだったんだ。
「ウン!ねぇねぇ、それでどうなったの?」
あの時、ぬしさんは僕が声をかけたのにスッゴク驚いていたんだ。
ぬしさんは、“今の人間”じゃ、俺達の姿は見えない、って、こうやってお話をしてくれるようになったころ言ってたんだ…。なんでだろう?
「あ、いい忘れてた俺は“オールフリー”には言っているときはまだ人だったんだ。それかどうしてこんなんになったのはあとで説明するよ。」
それから、ぬしさんのお話を聞くようになったんだ。
僕はね、ぬしさんのお話が大好きなんだ。
悲しいお話もあるけど…、とっても楽しいんだ。だからね、…
「ねぇ、その時ってどのくらい昔?どうやって旅をしたの電車?車?」
「その時は確か…5000年前くらいかな…?誠琴、その時代には車どころかライターもない時代だ。その時はまた別の生活、文明があったんだ。
今じゃ使えないが、魔法だって存在していたんだぞ。ま、力が強くないと出来ないものだったけどな。だから、移動は馬とかを使っていた。」
いつも、この「住まい」にくるのが楽しみなんだ。
「今と違って、旅をする人が多かったんだ。それで商売をする人もたんだ。俺の入った団はみんなにちがう言葉で呼ばれるリーダーがいてな「ヒロスケ」っていうんだ。
俺達は“何でもや”みたいなことしていていろんな村を転々としたんだ。ちょうど入団したてのころに今俺が探している親友に出会ったんだ。確かあの時は…。」
それで…ぬしさんこそ、“ランタン”さんは僕にお話してくれるんだ。

2 回想・5000年前
「フォレスト…“ブラック・フォレスト”の通称名、その名の通り町は暗い森に囲まれている。そこの連中の心もその分暗いって聞いた事がある。」
俺は今、次の村の説明をきいている。旅をしている者としてはその村の特色を知るというのは大切な事だ、と団長であるヒロ兄から聞いた事がある。
「そんなわけないだろ。団長は“忘れ物”があるらしい。…俺、本当あんまり行きたくないんだけどなぁ偵察。…命令だし、一応。」
今、話しているのはミズキ・フォワードロース俺はミズキ兄と呼んでいる。
ミズキ兄はこの団では主に偵察担当で、女装がスッゴクうまいんだ。
「めずらしい、ミズキ兄が嫌がるなんて。なんか理由でもあるの?」
ため息交じりでぐちるミズキ兄の様子に興味を引かれた。
ミズキ兄がヒロ兄の対してばかりぐちる事は多いけど、入団したての俺が知る限りじゃ今まで嫌がる素振りは見せなかった。
「まぁな…。噂は千里を走る、と言うが“化け物がいる”だの“村人は狂人ばかり”だのいい話を聞かない。それが噂で終わらないから嫌なんだ。」
「…じゃあ、本当にフォレストにお化けがいるのか?俺でも見れるかな。」
俺にはお化けを見た事がないので、良い機会だから拝見したいものだ。
「…時の運とお前の才能しだいだな。俺は拝んだ事はないな。」
残念。俺には魔の才能なさそうだし。いいとこ素早さって所か。
「あんまり期待しない事だな。2日内で帰ってくる。じゃ。」
実はミズキ兄は偵察用に服に着替えてた所だったりする。
「ミズキ兄。村の様子を教えてくれよ!死ぬなよ!!」
ミズキ兄は偵察用演技で笑い、こう言ってフォレストへと馬を走らせた。
「ばかね、この私がそこらのおじさんにやられるわけないでしょ。」
やっぱりそのしぐさや口調は女の人そのものにしか見えなかった。

「さて、俺らは野宿の準備。おいラン、水くんで来い。途中で湖あったろ。」
俺達はミズキ兄が帰ってくるのをいつもどおりの方法、野宿して待った。
「おっけー、わっかりました!!じゃ、いってきます。」
と、出てったものの、湖は結構遠かった。馬と人の足は速度が違うもんだ。
湖が全然見えないし、砂漠のような風景も相変わらずでウンザリだ。
「はぁ、馬に乗ってくればよかった…。」
「オイ」 
背後からの声に、俺は驚きを隠せなった。振り向いてみると…藍白の髪と勿忘草色(わすれなぐさいろ)の瞳をもった、年は俺と同じくらいの少年がいた。
こいつが声をかけたんだろう。
「…?なんのようだよ。」
怪訝そうに返すとその少年は
「湖の水を飲むな。水が欲しければ他をあたれ。」
あからさまにそいつは水をくんだタンクをもっているし、目の前でその水を飲んでいる。村の大事な飲み水をとられたくないってケチな根性か。
「なんだよそれ、せっかくここまで来たんだ、俺は湖の水をくんでいく。」
「そうか…。」
あっさりそいつはその場を後にした。俺にしてみれば意外な展開だった。
「…なんなんだ…あいつ?」
ま、いいか。俺は気を取り直して湖へとむかった。
後ろでむせてせきをする音に、無性に苛立ちを覚えた。

「で、結局湖の水は飲める物じゃなかった、か。行った意味無いな。」
月が輝き始めたころ俺は団員達へ湖にいったときの話をしていた。
「くー、その通りだよミズキ兄!あいつの言う事聞きゃよかったよ!!」
その日中に帰ってきたミズキ兄を含め皆とその話をしてるとリーダーが
「ラン、その少年の周りには他に誰かいなかったか?」
「他に誰も…珍しい髪の色をしてたよな。村の特色かな?お化けとか?」
髪と瞳の色が他民族の特徴の一つに上げられる。
「それはないな。村には黒か茶の髪と目を持った人しか居なかったし。」
もちろん、突然変異などめったに起こることはない。
「で、ミズキ。村はどんな様子だった?入れそうか?」
この時の入るとは村に俺達が足を踏み込めるか。と言う意味だ。
「歓迎はされないが、追い出される事はないと思いますよ。団長」
「…そうか、じゃあ明日にでも村に入ってとりに行きたいんだが…。」
その言葉に俺は素早く反応した。こんな面白そうな機会めったにない!
「ヒロ兄!ミズキ兄!!俺も一緒に連れてってくれ!な、いいだろ!?」
「ランか…。ま、いいだろ。お前が居たほうが逆にいいかもしれないしな。」
「え!?いいの!!やったー!!」
こうして“お化けのいる村”に入れる事にわくわくしながら夜をすごした。

「へー、ここが“フォレスト”か以外に普通だな。」
暗い不気味な森に入り、しばらく歩くと門も何もなく村についてしまった。
村の様子を一見するとにぎやかさはないけど住居も人も他の村や町との違いはそれほどなく、俺としては落胆だ。
「俺は忘れ物取りに行くから。お前ら適当に村、回ってて。よろしくね。」
女装しているミズキ兄と俺をしり目にヒロ兄はどこかにいってしまった。
「ミズキ兄…俺どうすればいいんだ。」
想像もつかない事をするのはヒロ兄の特権だけど、さすがに困る。
「そうだな…。適当に村歩いて、メシでも食うか、それに水を補給しよう。」
と、言う事で俺とミズキ兄は村を歩く事にした。

3 再会・虚実・真実 ミズキとランを無理やり残して俺は“忘れもの”をとりに行く為、記憶をたどりながら目的地へと足を向けた。
都合の良い事に村は16年前とそれほど変わらない姿で迎えてくれた。あとは長老様と再会さえ出来ればいい。
はたして生きているかどうか、死と言うものは絶対だ。生きて再開できることを願いながら記憶上、長老様の家の扉を開いた。
「こーんーにーちーはぁ!!長老様は生きておられますか?」
「ほほ、ようやく来なさったかいヒロスケ。待ちに待ったよ。」
ふざけた言葉を見透かされて、唯一返される人。
「えぇ、お待たせしました。何とか受け取る準備が出来ました。では…」
「あぁ、わかっとるよ。あの子の様子だね。あの子は良い子だよ…。」
長老様のお話を聞く為その場に腰を下ろした。

「あら、旅の方じゃない!昨夜は姿が見えなかったんで心配したんだよ。」
すでに村に一度入っているせいかミズキ兄は良い意味で顔を知られていて、好都合だった。
ついでに今声をかけられたのは食堂のおばちゃんだ。
「すみません、おばあさん。私の弟を少し捜していたものでして。」
演技で事も無げに女として話していくミズキ兄をしり目に俺は空腹を適度に満たし、水も補給できそうなので、
女同士?の会話に入れるわけもないので
適当に窓からみえる風景を見ていた。と、白藍の髪が見えた…!!
「あいつ!…なぁ、おばさん。あの白藍の髪の男の子知ってる?」
おばさんは俺が指差した人物を見ようともせずにこう答えた。
「あいつにかかわらないほうがいいよ。ほかにお菓子はいらないかい?」
おばさんの顔を見た瞬間、俺にはこの村の裏側を見た気がした。

「くそ!何があるんだよ。この村!」
店を早々にでて文句をいっているとミズキ兄が穏やかに言った。
「前この村に来た時に村人から事情を聞いた。あいつ拾われたらしい。」
「じゃあ、あいつ親無しかよ!それで嫌われてんのか…。」
心のせまいやつら、呟くとミズキ兄が声を低くして続けた
「ちがう、問題はあいつのいた場所だ。雪積もる寒い夜、森の中に捨てられた元気に声をあげて。
その理由から化け物扱いされている、ときいた。」
そんな理由で嫌うなんて、俺には到底理解できない。
それとも他に理由があるかと思って俺よりは詳しいミズキ兄に聞いた。
「いや、そんな話しは聞いてないな。それに、そこまで知るほど関わりたくないらしい。
だから共同の物は一切使えない、使わせない、らしい。」
「……、それで飲めない水を取りに…!!」
あの事の意味を理解した。残ったのは怒りだった。
「落ち着け、意味が無い。どうしていきなり怒り出したんだ?」
冷静にさせてくれたのはミズキ兄だ。
「…あいつ湖の水を飲んでいた。きっと村で飲み水がもらえないからだ。」
そうじゃなきゃあんな毒に近い液体を飲むわけ無い!
「…疎外はひどいようだな。」
呟いたのはミズキ兄。…それから俺達はあいつを追いかける事にした。

「どうする、ラン。おいかけてみるのはいいけど、それで何をする?」
何となく追いかける事になったので理由なんか無いが、希望はあった。
「あいつと話しをしてみたい。もしよければあいつを仲間に入れたい。」
「“オールフリー”にか?俺は良いと思う。こんな所じゃ見殺しだ。」
笑顔で賛成してくれたミズキ兄に俺は安堵した。
肝心のあいつはすぐに見つかった。食堂で見た時は気付かなかったけど、
手に自分で狩ったと思われる兎を手にしていた。
「…俺、行って来るから。」
村人が気のきかせたつもりの邪魔が無い事を祈って声をかけた。
「よう、昨日の湖にいた人だろ?その時はアリガトな。」
素早く喋る俺に、瞬時怯えを見せたものの、また無表情に戻る。
「僕に関わらないほうがいい。道案内なら他の人がしてくれるはずだよ。」
そう言いきるとあいつは素早く歩き去ろうとした、けど俺がそれを止めた。
「ち、ちがう。その時のお礼がしたかったんだよ。俺はランタンって言うんだ。き、君はなんて名前?」
止めたのはいいが、上手く会話に繋がらない。
とりあえず聞きたい事を効いてみたのだが本当はこんな形で聞きたいんじゃない。
焦る心とは裏腹にこいつは悲しい顔もせず、笑う事もせず、自分の異名をなのった。
「…ジャック・フロストだよ。」
この村での嫌われ者の代名詞“ジャック・フロスト”と。
こいつは本名を呼ばれた事も、感情も無くなってしまったのかと、と思うと同時に自分の昔の姿がこいつの影に見えた気がした。
「あの時は水を飲まなくてよかったね。」
歩く姿に声をかける事は出来なかった。自分の非力さを思い知った。

「そうか…、嫌われちまったか。」
「この村にとって白は忌み嫌われるものだからね。仕方がないとはいえ仕方がないけど…。もうすぐ限界だよ。あの子が成人する年になる。」
「…手に余る、か。そうだな。だけど、心配ありません。」
「もうここからいなくなるのだね…。フロストも居なくなるんだね。」
話し声が家から聞こえる。村の人が家を訪ねて来たのかな。おばあ様は元村長だし、深い教養や知恵があるから色々と村の人が相談に来るんだ。
それとも…僕を追い出す事を薦めているのかな。
「…ただいま、お婆様。」
こんな時、どうしたら良いかわからないから、家に入って自分の部屋に移ることにしているんだ。村の人が嫌がるから僕の顔を見せないようにして。
「お帰りなさい。今、お客様が見えているのよ。こちらへきなさい。」
今まで一度も客人の前へ行った事なんて無かったのにどうしてだろう。
それもと人買の人でも村にやって来たから引取りに来たのかな…。
いたのは30代くらいの男性が1人で人買には見えそうになかった。
「こちらですよ。さ、ご挨拶をしなさい。」
挨拶と言われても客人に向かってどんな挨拶をして良いか判らずにお辞儀を一つだけしてみた。
「この方はヒロスケ、といってね、私の昔の知り合いなんだよ。」
説明を受けるとその客人は僕向かって語り始めた。
「よろしく。いきなりだけど、世界旅行なんて興味無い?」
「旅行…ですか。」
その人のいうとおり、いきなり言われたのでどう答えてよいかわからない。
「うん、俺達と一緒に旅をしないか?答えは今すぐじゃなくても良いし。」
きっとこの人は僕に同情でもしてくれて、それで誘っているんだろうな。
でも、僕、みんなに嫌われるし。そう言えばこの人、俺達って言っていたよね、確か。…もしかして。僕は南瓜の形のした帽子をかぶった、
それと同じ色の目で髪の毛は深緑の人を思い浮かんだ。
「ランタン、と言う人と、女の人もお客様の旅の仲間ですか?」
客人は何かに気付いたらしく、慌てて僕に言い残した。
「あいつら忘れてた!ゴメン。今日は泊めてもらう事になったから、よろしく。また来るから。ランと知り合いの様だから仲良くしてやってくれ。」
慌てて、家から出ていった。と、思ったら申し訳なさそうに戻ってきた。道端であったランタンともう1人の仲間を連れて。

あいつとの会話に見事、不成功に終わり。あいつを追いかけないで、そのまま町をぶらつく事にした。俺は気分が晴れないでいた。
「ラン、そんなにくよくよするな。会話なんてそんなものだろ。どんな事でも相手を少しでも知って、それを経験として次の会話に持ち越す、な。」
言外に一回くらいの失敗を気にするな、とも含まれていた。
「団長遅いな。」
呟かれて初めて気にとめたのが今の時間だ。今はもう夕日が沈み始めている。さすがにヒロ兄ももうそろそろ俺達のところに来るはずだ。
「ヒロ兄こなかったらどうしようかミズキ兄。」
と、言った瞬間、都合がよすぎるくらい都合よく、ヒロ兄が斜め左の家から出てきた。俺とミズキ兄はちょうど左側を歩いていたのでぶつかった。
「ッテー!ひ、ヒロ兄どうしたんだよ。わ、オイ!!」
ぶつかって痛がる俺にヒロ兄は無理やり手を引っ張って出てきた家に入らせた。ミズキ兄は引っ張られる俺を追いかけるようにしてその家へとはいっていった。

4 決断・真実
「どうしたんだよ、ヒロ兄!いきなり、痛かったぞ。」
文句をたれてる俺を無視してヒロ兄は話し始めた。
「俺の仲間でランとミズキだ。今夜お世話になるよ、よろしく。」
…道やら俺達は今夜ここで泊まるらしい。俺は誰に話しているのかと死角にいた人物を見ると…あいつだった。あいつは俺と目が合って
「あ、やっぱりそうなんだ…。」
と、1人で何か理解していた。
「知り合いなのか、じゃ話は早いな。」
ヒロ兄はミズキ兄と共に長老様に挨拶してくると言って奥へと行ってしまった。長老様って村長のことかな、もしかして息子なのか、こいつは。
「なぁ、君の親は村長さんなのか?」
二人きりになったので、話す相手はこいつしかいない。
言っとくがこいつが嫌いで、こいつと呼んでいるのではない。かといって、異名なんかで呼べるわけが無い。嫌われ者の代名詞なんて…。
「僕が来る前はそうだったらしいけど今は違うよ。それに親でもないよ。」
拾われたと聞いたが、さすがに本人が親ではないとは言わないだろ。
「じゃあ、誰?奥にいる人は?」
「僕を育ててくれたお婆様だよ。昔僕は拾われたんだ。」
それを世間一般では育ての親というんだよ。
そのツッコミは何とか口に出すことなく、次の話へ移る事が出来た。
「へえ、じゃあ君はあのひろすけさんに誘われて“オールフルー”に入ったんだ。僕も今誘われたんだけど…。」
話をはじめてしばらくたったと思う。会話は順調に進んでいて、道端で話した時とは大違いだった。
「それだったら入れば良いよ。俺は大賛成だ。」
「そうか…。どうしようかな、僕。」
…道端で話した時とは違う意味で今度はなしにくいい。いきなり話題を変えるし、変な勘違いもする。ヒロ兄だったら笑って終りなんだろうな。
「俺達の仲間になる事?この村で遣り残す事でもあるのか?」
旅人になるんだったら生まれ故郷を捨てなくてはならないからだ。俺は捨てると言うか、捨てられた立場だったからな…。
「うん、お婆様が心配で…ランタン君はよく故郷を離れられたね。」
こいつの目を見た瞬間フラッシュバックがおこった。あの日の映像。村人からの呪詛のような言葉。投げつけられる石。遠巻きに涙をこらえる母。
「ラ、ランタン君…?」
俺がいきなり涙したので慌てるこいつに俺は涙をふきながら言った。
「ご、ゴメン。何でも無い。…目が乾いただけだから。」
あの時を思い出すといつも何だがとまらなくなる。今だってそうだ。
「で、なんだっけ…?」
俺が話題を戻そうと勤めるとこいつは困った素振りをして答えた。
まあ、確かに話してる相手が急に泣き出されたら困るよな…。
「お~い!ランこっち来い!長老様が顔を見たいらしいぞ。」
俺は呼ばれてしまったので仕方がなく呼ばれたほうへと向かった

ランタン君がヒロスケさんに呼ばれると声のほう、お婆様の部屋へと向かった。
それから少したって僕はどうしたら良いか判らないので自分の部屋に戻る事を思い始めたとき、ヒロスケさんがこの部屋に顔を見せた。
「よう、ゴメンな、話しをしている時にランをよんじゃって。」
「いえ、少しどうしたら良いか判らないだけですから。」
「そうか…。それはすまなかったね。」
正直な事を言うと、ランタン君もそうだけど困った顔をするんだ。
「それで、どうだい。俺のたびの仲間になってくれ無いかい?長老様には了解を得ているんだ。あ、ダメならダメで良いよ。君の自由でいいから」
僕の自由…。でも、不安だな。
「きっとみんなに嫌われると思います。今もそうだからかまいません。」
ヒロスケさんは笑顔でこう言った。
「ランはな、あいつは村で嫌われていたんだ。俺が来た時村人から石投げられて殺されかけていた。それを、俺が命をかけて、救ったと言うわけ。」
その言葉に僕は驚きを隠せなかった。
「お前は今、殺されかけている。今年で歳は15のはずだ。この村じゃ忌み嫌われる存在が村の代表、大人になるのがどんな事か、想像できるか…」
その言葉にもっと驚きを隠せなかった。動揺が僕の中で生まれた気がした。
「逃げろ、と言わないが胸を張れるようにしてほしい。ランだってお前みたいな事を殺されかけたのにそう言った。でも世界は広い、こんな村は世界じゃありほどの小ささだ。
小さな事を気にする必要はなくなる。」
僕は何もいわずに話しを聞いてた。何か言う力がなかった。
「すまないな。いきなりそんな事いって。でも、ちゃんと考えてくれよ。」
肩をたたかれた力は強かったけど僕のショックが少し和らいだ気がした。
僕は気持ちを決めてお婆様の部屋へと向かった。

5 別れ・仲間
「ほうほう、この子がランかい。うちの子にそっくりだよ。」
と、独り言のような喋りがずっと続いている。80代くらいのおばあちゃんが部屋にいて、笑顔で座らされると、この状態が始まった。
「失礼します。」と部屋の外から救いの声がした。あいつだ。
「入りなさい。」
おばあちゃんがそう言うとあいつは部屋に入っていきなり「出てけ」
と言ってきた。二人きりで話しがしたい、となぜ言えないのだろうか?
「すまないね。この子はあまり人様と喋らない者でね…。」
とおばあちゃんがフォローした。俺は早々に出ていった。
しばらく待つとあいつが出てきた今度はおばあちゃんもいっしょにいた。
俺は何となく一歩下がるとこいつはどこかへと走っていった。

「そっか…。やっぱり俺達と来るのか。」
おばあちゃんと二人きりで話すあたりで決まったようなものだが、一応リーダーからその事を聞いた俺の感想だった。ついでにあいつを呼んで来いと言われたので、呼びに行くことにした。
「お~い、用意できたか?早くしないと遅れるぞ。」
俺はそいつの部屋をあけると慌てて服類をバックに詰めるあいつがいた。
「ま、まってよ。今用意してるから。」
…一応慌ててるようなので余りその事に触れずに、部屋を後にした。

それから俺達はあいつが仲間になると決めたその日の夜に闇にまぎれて村を出た。
後で聞いた事だったけどあいつの誕生日は日付上の今日、状況では15歳になったばかりにと時に村を出たらしい。
そして朝日が俺たちをてらすころ森をぬけ出して俺たちが野宿していた、そうこいつとであった平野に出てきた。これから…こいつと旅をするんだろうな。きっとこれから
こいつのそばに俺はいる事になるんだろうな。俺は、朝日をまぶしそうに見つめるこいつを見ながらぼんやりと思った。
そう思ったのは理屈ではない何かがはたらいていたからだった。二人がそれを知るのは、千年の時を生き、万物の洗礼を受け妖精になった後の話…。
「…あらためて、よろしくな。俺は…ジャック・ランタン。ランでいいよ。」
俺は握手を求めると、こいつは意味がわからずに首をひねっていた。
「あ、僕は…フロスト。ジャック・フロスト。よろしくね、…ラン。」
こいつはぺこりとお辞儀をした。…どうやらこいつには握手と言うものが知識に無いようだ。俺が手を差し出しているから普通わかるはずなのに…。
それに…異名を名乗り続ける気でいるようだ。俺はそれに答えようと思い
「そうか、…じゃあ、フロストだから…。フロートってどうだ?」
フロートは照れた様子で頷いた。
結局俺がフォレストで見たものは、これからの親友であり、ヒロ兄の言う“忘れ者”だった。
……そして俺たちは旅を続けた。

6 回想後・現在
「一応これで話は終わり。これから話すと結構時間がかかるからな」
僕は本当はもっとお話を聞きたいけど、もう夕日が傾いているから僕はしぶしぶ了解したんだ。だからね、僕はこういったんだ。
「ぬしさん、じゃあ、今日はかえるね。明日もお話聞かせてね。」
ぬしさんはいつも、あぁ、っていってくれるんだ。でも…。
「…悪いな、誠琴。明日は話を聞かせてやれないよ。」
僕は意味がわからずにすぐにこうきいたんだ。
「なんで、どうしてそんなこというの?ぬしさん。」
「俺は、もともとフロートにあいにきたんだ。お前にお話をしてやる為じゃないんだ。わかるよな。だから、もうそろそろ行こうと思ったんだ。」
僕には、意味がわかっちゃたんだ。だから何もいえなかったんだ。
「誠琴、俺はまたここに来る。いつになるかわからないけど、その時になったら、絶対にお話の続きをするから。な?」
僕は何もいえなかった。でも、僕には聞きたい事があった。どうして僕にお話してくれたの?って。
次の日、急いで僕は住みかへと向かった。でも、ぬしさんも、ランさんもいなかった…。いつも僕のそばにいてくれた妖精さんはいなくなった…。

“誠琴、俺がお前にこの話をしたのはな、お前が、あのころのあいつになんとなく似ていたんだ…。それが答えだよ。また、誠琴の所に行くから”