Novel
「Sweet a little courage」


…僕はいつも一人きりだった。
 つまらない日常。何もかもが終わって欲しかった。
 何もかもを壊してしまいたかった…。
「おう、洋平!おめぇ、どうしたんだよ?元気ねぇじゃねぇか」
「うん…」
 だが、いつも僕に話しかけてくれる奴がいた。僕は拒否しているのに、どうして…?
 僕の名は、山川 洋平。15歳…で、友達もできた事がない。そんな事が当たり前だった。
 そして、今、僕に話し掛けている奴、名前は知っている。
 確か、神崎 裕也だったはず…。
「洋平、今日も元気ないな…。どうした?話そうぜ」
「いや、気分が悪いんで、放っておいて欲しいんだけど」
 一人きりの生活に慣れてしまったのか…、人に話し掛けられると、何か、うざったい気がする。
 本当は、そうして欲しかったのに、本当は、話したいのに…。
 今、変わりたいのに…、どうして……?
「あっ、そうか…。じゃ、また今度な」
「うん…」
 そして、裕也は去っていく…。だが、去って欲しくはなかった。まだまだ話したかった。
 自分の辛い過去などや、楽しい話などして、楽しみたかった。
 自分の弱さに腹が立つ。…自分に正直になれない。
 だから、話せないんだ。どうすれば変われる?何かが違うんだ。
 僕の痛みを知って欲しい…。そうすれば、何かが変わってくるかも知れないんだ。
 人間は一人では生きていけない。今の僕なら、そう思える。
 昔は…、違ったんだ。
 いつも一人だった。
 親は、外国へ仕事に行き、僕は学校から帰り、一人きり…。
 やる事と言えば、ゲームくらいしかない。
 こんな生活だから、友達もできず、ただ、暗い箱の中でうずくまっていたんだ。
 僕は一人だったんだ。
 けど、今だったら変われる。そう、あの裕也が僕の人生を変えてくれる…。そんな気がするんだ。
 そして、僕も変わってやる。自分に言い聞かせるんだ。不可能な事はない、必ず…。

 今日もいつもと変わらない…。
 何事もなく、過ぎていく…。寂しくないと言えば、嘘だ。
 自分の人生なのに、どうしてこんな事ばかりが続くのだろう。
 だけど、変わらない生活。何もない一日。こんな生活に、飽き飽きしてきた。
 前からも、そうだったが、もう耐えきれなくなったんだ。
 一人でいる事の、寂しさ、不満、時には怒り。
 この思いを誰かに聞いて欲しかった。誰かに自分の気持ちの隙間を埋めて欲しかった。
 ………僕はひたすら泣き続けた。
 自分が嫌だ。自分が憎い。どうしようもない。何もない。
 壊れていく自分に対して、僕は何とも思わなかった。
 気が済めばいい。ただそれだけで…、僕は…、


 ………寂しいよ………
      お母さん、お父さん
 ずっと泣いた。涙が止まらなかった。
 このまま壊れていくのだろうか…?
 ……僕は、このまま……



 だが、ある日、ある事を思い出した。
 『勇気』という言葉。
 これさえあれば、何でもできるって…、小さい頃、父さんによく聞かされた言葉だ。
 僕も、勇気があるのだろうか……?
 いや、ないに決まっている。自分でそう思いこんだ。
 やらなければ始まらないのに…、今の僕では、そんな事は思うはずもなかった。



 「洋平!遊ぼうぜ!」
 裕也だ…。僕の心の隙間を埋めてくれるたった一人の人間。
 だけど、僕は…、人と遊びたいのに、触れたいのに…。遊びたくないと、口が勝手に喋ってしまう。
 心は受け止めているのに、体が拒む。
 なぜ…?
 あの頃に戻して…、自分に不平がなかったあの頃に…。
 僕は何なんだ?
    ………一体何の為に生きてきたのだろう………



 ………自分は、自分だ…。
 前に聞かされた事がある。
 自分に自信を持て、そうすれば、自分の進むべき道がそこにある。
 以外と近いかもしれない。その、道というのは…。



 …そう、思い出した。
 そう言う事なんだ、例え暗い未来であろうと、一生懸命生きる事が大事なんだ。
 どんな事を背負ってもいい。辛い事、悲しい事…。
 僕は、そうしなければ、生きる事さえできなくなる。今すぐ死んでしまう。
 一つの生命が無くなる…。



 自信を持とう…。いや、持つ!
 そうすれば、僕にだってできる事がたくさんあるはずだ。
       ……頑張ろう……



 「洋平!今日は遊べるかぁ?遊ぼうぜ!」
 「…うん、遊ぼう…、裕也」
 「よーし、それにしても久しぶりだなぁ~。お前と遊ぶのも」
 「けどさ、裕也っていつも僕の所に遊びに来てない?」
 「えっ…?まぁな……友達だからよ」
 …裕也は少し照れくさそうに言った…。
 子供みたいだった…。僕も何故か笑い出した。
 「ふふ…」
 「けっ、何笑ってんだよ!」
 「へ…、別に…」
 「…ちぇ、まぁ、いいか。
 ほらっ、洋平、遊ぼうぜ」
 「……うん」



 ……こういう事だったんだ。簡単な事だったんだ。
 一つの勇気を出せば、やりきれる事ができる。
 夢でもない…、これが『現実』。


…………人生って面白いのかもしれないね…………