Novel

黒猫探偵局はKUROの作品です。
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『黒猫探偵局』

☆ 第一章 探偵団「黒猫探偵局」

夏のある暑い日にこの事件は始まった……
「おーい、光侍(こうじ)!」
 この話の主人公吉田光侍は、後から近づいてくるこの声の持ち主に気が付いた。
「なんだ、大輔か。」
「大切な相棒に向かって、なんだとは何だよ。」
 この、自分のことを光児の相棒だと言っているのは、後藤大輔。彼のおかげで自分の所に事件が舞い込み、懐が潤ってくるのだ。
「いやごめん。ちょっと最近事件がなくて、気が立ってたんだ。」
「事件のことなら、メールが来たぞ。」
「え?本当かよ。見せてくれ。」
「ほら。」
 『黒猫探偵局の方々へ
  僕の友達が理由も告げず、行方不明になってしまいました。頼みます。どうか助けて下さい。もし来て下さるのなら、メールをください。
           ビッグ コンドル』

「来るのかと言われてもなぁ。大輔、とりあえず場所を聞いておいてくれ。」
「分かった。」
「ひとまず、家に来て休まないか?」
 光侍の家は、ここから50m程のところにある。
「助かった。」
 光侍は、現在、マンションで一人暮らしをしている。
 両親は仕事でロンドンに行っている。
 これまで光侍は、10歳まではいろいろな国々を転々としていたので、話すだけなら、日本語を含めて四か国語をあやつる。
 一方の大輔は、と言うと、かの後藤財閥の次男坊なので、気ままに遊んでいることができる。
 いつも依頼者の所へ行くときの旅費は、彼がすべて負担しているのだが、光侍についていくと楽しいことがたくさんあるので、それを損だとは感じていないらしい。
 ところで二人は、探偵事務所を持ってはいない。
 しかし、その代わりにインターネット上に探偵事務所を構えているので、今回のようにネットを通して二人の所に事件解決の依頼が舞い込んでくる、というわけだ。
 依頼内容の中には、メールだけで解決する事件もあったりする。

…2…
 光侍のマンションに着いた。エレベーターに乗ったが、生き返るような涼しさだ。
「ふう。なあ光侍。」
「なんだ。」
「この事件をどう思う。」
「別に。その人に聞くまで何も考えないで行った方がいいと思うよ。先入観はできるだけ持たない方がいい。」
「そうか。じゃあそうするか。」
 この聞き分けのよさが、大輔のいいところだ。そんな事を言っているうちに、エレベーターは光侍の部屋のある最上階に到着した。
「まあ、上がってくれ。」
「そんなこと、言われなくったって上がるぞ。」
「ああそうか、ちょっと待ってくれ。」
 光侍は、よく冷えたコーラを差し出した。
「まあ、飲めよ。」
「分かった。」
 大輔は、そう言いながらもコーラには目もくれず、ノートパソコンにPHSを繋ぎ始めた。
「おい、メールの返事が来たぞ!」
「見せてくれ。」

 『黒猫探偵局の方々へ
  みなさん、もう時間がありません。ぼくの家は名古屋です。いなくなったのは高校生が三人です。早く来て下さい。
          ビッグコンドル』

「もう時間がないのか…。」
「光侍、いつから行ける?」
「おれは、今すぐでもO.K.だ。」
「おれもだ。」
「じゃあ、今から一時間後、駅で。」
「わかった。今から準備する。」
 一時間後、光侍は荷物を持ち、駅のホームに立っていた。
 約束の一時間は、とうに過ぎ、苛立ちが込み上げてくる。「遅いな。」そう思ったときに、ようやく大輔の姿が見えた。
「遅かったじゃないか。」


 …3…
「悪い悪い。メールを出したりホテルの予約をしたりしていたから、遅くなったん
 だ。」
「…ならいいよ。」
 光侍は簡単に機嫌を直した。
「ところで、何をそんなに持ってきたんだ?」
 大輔は、一ヶ月くらい暮していけそうなほどの荷物を抱えている。
「PHSと、衛星携帯電話と、普通の携帯と、ノートパソコンとデジカメとデジカメ付ノートパソコンとGPSだ。」
「凄いな、それ。」
 光侍は、少し呆れ顔でいった。
「おまえは?」
 大輔が問い返す。
「懐中電灯とコンパスと携帯とラジオと万能ナイフと…とっておきの…コレさ。」
 と、光侍は自分の頭を指さした。
「じゃあ、のぞみに乗りこむとするか。」
 大輔は、光侍の言葉など聞いていないかのように言った。
「ところで、貴洋は?」
「ああ、あいつなら東京に残って、警察に届けられているか調べているよ。」
 貴洋というのは、警視庁の警視の息子である。だから、光侍は事件が舞い込むとすぐ、貴洋に頼ることにしている。
「腹が減ったな。」
「もう6時だもんな。」
「食堂車へ行こうか。」
「いや、…売りに来た。」
「すいませーん!幕の内弁当とお茶を二つ下さい。」
「はい、ありがとうございます。1500円です。」
「はい。」
「ありがとうございました。」
 しばらくの間、光侍と大輔は、食べるのに夢中になった。
 食べ終わるのを見計らったかのように、光侍の電話が鳴った。貴洋からの電話だ。
「はい、もしもし…ああ、貴洋か。…終電で来る…分かった。…駅前の、『F』というホテルだ。…分かった。ロビーで待ってる。」


 …4…
 名古屋駅に着いた。
「ふーっ。やっと着いた。」
「長旅だったな。」
 そんなことを言い合いながら、宿に入っていく二人。
 予約してあったので、すぐに部屋に通された。部屋に荷物を置いて、ロビーに貴洋を迎えに行くことにした。
「何時くらいにくるんだ?」
 大輔が聞いた。
「いつだったかな。」
 光侍が首をかしげながら答えた。
「おいおい、それでも探偵かよ。」
 大輔が少し怒ったように毒づいた。しかし、言葉より怒ってはいないようだ。
「あっそうだ。最終のひかりで来ると言っていた。」
「それを早く言えよ。」
 すかさず大輔がつっこんだ。
「おーい、大輔、光侍!」
 貴洋が、持ち前の大声を更に大きくして、二人を呼びながら駆け寄ってくる。
「おお、早かったな。」
「まあな。」
 貴洋は、得意気に答えた。
「で、結果は?」
 大輔が尋ねた。
「ああ。俺の調べた限りでは、届けられてはいるが捜査を始めてはいないらしい。」
「なんで?」
 大輔は、不思議そうな顔をしている。
「だって、いなくなってから、まだ二週間だぞ。遊びに行ったと考える方が、普通じゃないか。」
「そうか、そういうことか。」
 ようやく納得できた様子の大輔。
「まあ、それくらいにして、部屋へ行こう。」
「俺が101号室。光侍が102号室で、貴洋が103号室。」
 大輔がカギを渡した。

 光侍は、部屋に入った後も、ずっと考えていた。


 …5…
 何が疑問なのかというと、メールに書かれていた「時間がない」という言葉だった。
 時間がないということは、光侍たちの居場所を知っているということではないだろうか。
「どういうことだ。」
 光児は口の中でつぶやいた。と、電話が鳴った。大輔からだった。
「おい光侍。依頼人からまたメールが来たぞ。」
「本当か?」
「本当だ。今すぐ俺の部屋に来てくれ。」
「分かった。」
 電話を置くが早いか、光侍は部屋のカギを握り締め、大輔の部屋へと駆け出した。
「遅かったな。」
 貴洋は既に来ていた。
「悪い。ルームキーを捜すのに手間取って。」
「まあいいさ。早速、これを見てくれ。」

 『黒猫探偵局の方々へ
  どうもありがとうございます。 8月16日の朝9時にテレビ塔で待っています。
             ビッグコンドル』

「明日か。」
 光侍がポツリと言った。
「今、何時だ?」
 貴洋が尋ねた。
「午後11時23分だ。」
 光侍が答えた。
「じゃあ、今夜はもう、部屋に戻って寝よう。」
「そうだな。」
 貴洋の提案に大輔もアクビ混じりに同調した。
「じゃあ、お休み。」
光侍も、アクビをしながら、大輔の部屋を出ていった。
 部屋に入り、ベッドに横たわってはみるものの、どうしても寝付くことができなかった。
「はぁー。」


 …6…
 それは、貴洋、大輔も同じだった。
 翌朝、三人とも腫れぼったい目をして、集まってきた。
「眠れたか?」
 光侍が聞いた。
「いや、全然。」
「俺も。」
 二人は、同時に答えた。
「さあ、元気出してテレビ塔へ行くか!」
 大輔がカラ元気を出した。
「ところで、テレビ塔って、どこだ?」
 貴洋が聞いた。
 光侍が、地図をゆび指して言った。
「ここだ。」
「そこか。」
「ここからだと、歩いて2・30分ってところだな。」
「ちょっと遠いな。」
「な~に、すぐさ。行こう。」
 光侍が歩き出した。
「何急いでんだよ。」
 大輔が文句を言った。
「だって、もう8時20分だぞ。」
「やばい!」
「早く行かなきゃ。」
 ようやく大輔と貴洋も慌てだした。
「ほら走れ!」
 更に光侍が急がせる。

 8時55分、テレビ塔に三人は時間内にたどり着いた。
「依頼人はどこだ?」
 光侍は、辺りを見回し、それらしい人を探した。
「いないな。大輔、連絡方法は。」
「今の所、メールだけだ。おれたちの顔写真を送ったから、向こうが見つけてくれるのを待つ他はないな。」
「消極的だな。」
 貴洋が言った。


 …7…
「しかたないだろ!」
 大輔が怒鳴った。
「おい、その位にしておけよ。…テレビ塔に上ってみよう。」
 光侍が、二人の間を割ってとめ、テレビ塔に上ることになった。光侍は、にらみ合う二人を意に介さず、さっさと進んでいく。
「お、おい。待ってくれよ。」
 二人があわてて光侍を追いかけた。

 三人がテレビ塔の入り口にさしかかると、館内放送が入った。
「東京都X区から御越しの、後藤大輔様。大慶誠二様がお待ちです。
 至急、展望台まで、お越し下さい。」

「おお。」
 大輔が、驚きの声を上げた。
「行くぞ。」
 光侍は、もうエレベーターの前に立っている。
「待てよ。」
 大輔、貴洋が急いだ。
「ほら、急げ。」
 光侍がせかす。
「ところで、今のって、依頼人だよな。」
 光侍が、大輔に聞いた。
「なんだよ。知ってて駆け出したんじゃないのかよ。」
 貴洋が呆れ顔で文句を言う。
「だって、俺は依頼人の名前知らねえんだよ。」
 光侍が言った。
「依頼人だよ。」
 大輔が答えた。
「やっぱりそうか。」
 光侍がうなずくと同時に、エレベーターが扉を開けた。
「依頼人を探すぞ。」
 光侍たちは、エレベーターの扉が開ききるのも待ちかねるように、駆け出した。

 …8…

☆ 第二章 消えた依頼人

 光侍たちが依頼人を探し始めて、一時間が経った。だが、一向にそれらしき人は見つからずにいる。
「やばい。」
 そう思った光侍は、大輔と貴洋を呼び集めた。
「見つかったか?」
 光侍はとりあえず、といった風で聞いた。
「いや全然。」
「こっちもだ。」
 貴洋と大輔は、もうお手上げ、という顔をしている。
「やばいかな。」
 光侍がそうつぶやいた瞬間、光侍は服を引っ張られた。小さな子どもだった。
「なに?」
 と光侍が優しく尋ねた。
「これ。」
 子どもは、光侍に左手を差し出した。みると、手には紙片が握られている。光侍は紙を受け取ると、大輔、貴洋にも聞こえるように、読み上げた。

『ビッグコンドルは預かった。これから以後の事件には首を突っ込むな。』
「これは?!」
 光侍がそう言ったときには、もうその子どもの姿はなかった。
「どうする?」
 大輔は、不安そうな目で、光侍の顔をのぞき込む。
「どうする?っておまえ、このまま帰れるってのか?このまま帰ったんじゃ、いい笑い者だぞ。
 依頼を受けたのにおれたちが来る前に、依頼人がさらわれたんだ。探偵としてこんなに不名誉なことはない。」
 光侍は一気に言った。
「分かった。俺はおまえについていく。」
 貴洋が言った。
「俺もだ。」
 大輔も貴洋に続いて言った。
「それで、何からやろうか。」
「そうだな…貴洋は捜索願いを出している人を探してくれ。それから…大輔、ちょっとパソコン貸してくれ。」
「ああ。ほら。」
 大輔は光侍にパソコンを渡した。
「じゃあ、そいつで警視庁の捜索願い一覧を見てみよう。」
 貴洋がパソコンを光侍から受け取った。
「そんなことができるのか?」
 光侍は半信半疑だ。
「まあ、見といてくれよ、俺の腕を。」
「ずいぶん太い腕だな。」
 大輔のボケも、パソコンに向かっている貴洋の耳には届かない。一心にモニターを見詰める貴洋。それから一時間が経とうとしたとき、
「あった!」
 突然貴洋が声を上げた。
「あったのか。」
 光侍と大輔もパソコンに集まってきた。
「え~と、いなくなった奴の名前は…大鹿?…駐在で捜索願いを出している
 のは大鷹一慶。住所は…名古屋市O区四丁目だ。」
「よし、行ってみよう。」
 光侍が言った。
「分かった。」
 二人も光侍に続いた。
 それから三十分後、三人はやっと依頼人の家に着いた。やはり、依頼人はさらわたのであろうか、人の気配はなかった。
「畜生!」
 光侍は、心の底から叫んだ。
「あっ!!」
 その時大輔が叫んだ。
「何だ、どうした?」
 貴洋が辺りを見回す。
「こ、これ…」
 大輔が指さす先には、何かが書かれた紙が落ちていた。裏返してみると、またもワープロで印刷されたらしき文が書いてあった。
『 小さな迷探偵諸君へ
 大鷹一家はこの私が預かった。まだこの事件に興味があるのなら、このHPにアクセスしてみるといい……
    ただし、命を懸ける覚悟をしておいてくれたまえ。
        地獄の仮面』

「…地獄の仮面か…。」
 光侍がポツリと言った。


この小説は、『作者(KURO)が続きを放棄した小説』です(´・ω・`)。