Novel
聖魔退戦《シャウムティーゼ》

 貴方は魔の住む都市を知っているだろうか?
 魔は憎悪,怨恨の塊で、人間を食らう怪物だ。
 多忙の都市、魔楼鳳《ムールーフー・まろうほう》にはその魔が潜む。
 魔に対抗する者は、いなかった。
 聖具を作れる技術ができるまでは……

其ノ壱 聖《シャウ》

 人々が忙しそうに仕事に向かう中、男は歩道の中央に立っている。
 男の年齢は20歳程度、服装は青いTシャツに長ズボン。あちこちが破れていて、戦闘の痕も見受けられる。
 ポケットに手を入れていて、何も持っていないようだ。
 男は人ごみの中を歩き、古ぼけたビルに入っていった。
 魔が巣食い、使い物にならなくなってしまったビルだ。
 普通の人間が魔に遭遇してしまえば殺され、生気を吸われてしまうだろう。
 魔との遭遇を望むようにビルに入る男は”自殺志願者”、もしくは”魔に対抗する術を持つ者”ということになる。
 男は目を閉じ、右手を前に出した。右手に鑓が出現する。
 男は目を閉じたまま、右手の鑓をビルの壁に突き刺した。
 壁から黒い影が灰となり、消えていく。黒い影は人間を食らう魔の一種……暗殺魔《アサシナトゥム》だ。
 目に見えない魔で、厄介な魔だ。
 鑓の突き刺した壁は崩れ、穴が開く。男は目を閉じたまま、暗い穴に飛び込んだ。
 何も見えない。しかし、魔が潜んでいることは確かである。
 暗闇の中、男の鑓が淡い光を放つ。鑓の光は魔を照らし出した。
 目に見えないはずの暗殺魔が光で影を現した。
 暗殺魔が男に襲い掛かる。
 刹那、暗殺魔に鑓が突き刺さった。暗殺魔は光に包まれ消滅した。
 暗殺魔が消えると、鑓の光も消えた。ビルにはもう魔がいないようだ。
 男は目を開け、暗闇の奥へと歩き出した。
 やがて光が見え、男は光の中に飛び込んだ。


 光の奥には古ぼけたビルの中の光景が広がっている。何も変わっていないようだ。
 男はホッとした表情でビルを出た。
 街は賑わい、ざわめく声が新鮮にも感じられる。
 看板には楼鳳《ルーフー》と書かれている。魔楼鳳ではない。
 楼鳳に魔が現れる事は滅多に無い。別世界なのだ。
 男はアパートメントに入っていく。東亜細亜特有の高層アパートメントだ。
 マンションといえるほど清潔ではない。それでも生活はしていけるだろう。
 男は一室、自分の仮部屋に入った。男の部屋に正装の女性が寛いでいる。同居人だ。
「蒼蘭、魔楼鳳はどうだった?」
 正装の女性が男、蒼蘭《そうらん》に問う。蒼蘭は鑓を札で封じ、壁に立て掛ける。
「あっちは、相変わらず魔が沢山いる。楼鳳はどうだ? 魔が封印を破ったなんてこと、無いだろうな?」
 楼鳳と魔楼鳳の裂け目には結界が張られ、魔が行き来出来ないようにされている。
「魔が結界を破るなんて事、あってたまるもんですか。
 結界を守るために私達、聖討師《シャウトゥ》がいるんでしょう?」
 蒼蘭は微笑した。
 聖討師は特殊な武具を操り、魔を倒す者のこと。武具の総称を聖具という。
 蒼蘭の聖具は鑓だ。聖具は特殊な物質で作られる。
 聖討師は裂け目の結界を守り、魔を倒すのが仕事で、僅かな人数しか存在しない。
 聖なる討伐師は、警察の一つの課に属する。
 『魔討伐課』、その名の通り魔を討伐する者の課だ。
 蒼蘭が魔楼鳳に行った理由は調査のため、魔討伐のためだ。
「小雀、今日仕事無いよな? 俺、寝るからさ」
 正装の女性の名は小雀《こがら》、蒼蘭と同じ聖討師で武具は自らの拳。
 聖具は対魔用の特製ナックルだ。
 蒼蘭がベッドに横になる。
 小雀の携帯電話が鳴り、受信。蒼蘭は嫌そうに小雀の様子を伺う。
「え? はい、はい。…はい、今行きます」
 小雀は携帯電話を切り、出掛ける準備をする。
「蒼蘭、行くわよ。仕事ができたみたい」
 蒼蘭は溜息をつき言う。やる気は無いようだ。
「まさか、本当に結界が破られたなんて言うんじゃないよな?」
 小雀は真剣に言い放った。
「そのまさかよ。魔が一匹、結界を破ったの。すぐ結界は塞いだから良かったものの、
 結界を破った魔は逃げたわ。雑魚じゃないみたい。どうする?」
 蒼蘭は起き上がり、聖討師の制服を着て頬を叩き、気合をいれる。
「雑魚には飽きてたところだ」
 壁に立て掛けた鑓を手にする。鑓は蒼蘭の手に消えた。
 聖具は持ち主の自由に現れ、消えるのだ。
 二人はアパートメントを後にした。


 楼鳳の街は相変わらず賑っている。魔のことなど知らないようだ。
 蒼蘭が自らの携帯電話に手を掛けた。他の聖討師から情報を手に入れるのだ。
「もしもし、俺。蒼蘭です。目標の魔は何処にいるんです?」
 返答する声は中年男性の声。声だけでもその強さが伝わるほどの者。
『朱雀の方向。煙がでているだろう? そこだ』
 朱雀は南方を司る聖獣。東西南北を司る四聖獣、四神は楼鳳では重要な意味を示している。
 蒼蘭は南方を向く。煙を出している建物があり、何らかの災害が起こっているのはたしかだ。
 蒼蘭は携帯電話を切り、小雀を置き去りにし走り出した。
 街を掛け抜け、蒼蘭は目的の南方に向かうため高層のアパートメントに跳躍した。
 アパートメントに着地、そのまま走り出した。
 20メートル以上の跳躍、常人には不可能だ。聖討師の能力といえるだろう。
 風が体を叩き、熱く響く。風を楽しもうとした瞬間、南方で異変が起きた。
 煙を出していた建物、デパートメントの最上階が爆発したのだ。
 街の人々は野次馬になろうと群がって南方へと向かう。平凡な毎日に刺激を受けたいのだろうか。
 蒼蘭は舌打ちし、走る速度を上げた。
 燃えるデパートメントの中で煙に隠れ光が走る。
 聖具を用い、戦っている聖討師がいるということだ。
 デパートメントの周りは警察官が囲み、野次馬を遠ざけようとしている。
 デパートメント内部にいた者は皆、避難したようだった。
 蒼蘭は高層アパートメントから地上、警察の包囲に飛び降りた。
 一人の男が蒼蘭に話し掛ける。電話にでた中年男性。
 聖討師の制服を着ていて、胸には勲章がいくつもある。無線を片手にしている。
「蒼蘭、見てのとおりだ。デパートメントの客、バイトは皆避難した。梔はすでに上がっている。頼むぞ」
 梔《くちなし》は現在楼鳳で一番強いとされている聖討師だ。
「頼まれました。行ってきます。あ、課長。小雀は下に残しておいてください。それでは」
 中年男性は魔討伐課の課長。腕っ節が強く、部下からの信頼も厚い。
 幾戦の勝者であることは勲章が証明している。聖具は斧を操る。
 蒼蘭は燃えるデパートメントの中へと入っていった。


...To Be Continued? "Holy" Closed...

あとがき

東亜細亜を舞台とした物語、どうでしょうか?
個人的には、かなり好きです。(造語ができるんで・ぇ)

聖《シャウ》と魔《ム》が戦い始める。-幻想記『聖魔退戦』-
幻想の東亜細亜は魔に侵食されていた。-幻想記『聖魔退戦』-
聖討師《シャウトゥ》と魔焔卿《ムーエングゥ》との戦い。


"Holy Devil Leavewars" Present By "Mikito" 紅堂幹人