Novel "カノン"
カノンは佳奈様の作品です。

設定はこちらに…

『カノン』


アザリア…そこは世界にたった一つの国であった。

世界大戦、そう呼ばれる戦いが過去何回も存在した。
その中で最も大きな戦いとなった『天魔大戦』であった。
天魔大戦は白い翼を持つセフィン族と、黒い翼を持つガルディス族との戦いであった。
しかしその大戦も10年の時を経て終戦を迎えた。
終戦から3年後、アザリア国が建国された。
もう2度と戦争はしないとし、一つの国を建てたのだ。

アザリア国が出来てから20年。
世界は平和だった。
そんな中で、アザリア国の次の王、今のアザリア国第一王子、エリオス・ルセル・アザリアは育っていった。

アザリア国の城の中庭の、ちょうど木で隠れて見えないところに子ども一人が通れるほどの小さな穴が空いていた。
そこを通って一人の少年が城内へと侵入しようとしていた。
その様子を相手に気付かれないよう、エリオスは観察していた。
少年は見られていることに気付かず入ってきた。
「よしっ」
少年は周りを見渡し、誰もいないことを確認するとそう言った。しかし、
「何がいいんだ?」
「うわぁ!」
少年は驚き、大声を上げた。
「何時からそこにいたんだ」
「おまえがそこから入り込むとこからずっと見てたぞ」
そう言ってエリオスはこれ見よがしにため息を吐く。
「なっ・・・」
少年はムカッとした様子だったが、あえて言い返しはしなかった。
「今まで良く見つからなかったな」
「うるせぇ・・・」
エリオスの嫌味な物言いに、少年はむすっとして呟いた。

10年前
エリオスが少年とであったのは6歳の時だった。
エリオスその日中庭にたまたま出ていた。
果てしなく澄んだ青空が何とも気持ちよさそうで、昼寝でもしようかと庭に出ていたのだった。
ガサッ
突然側で何かの物音がした。
「誰だっ!」
声を荒げてそう叫んだが、しんと静まりかえった中庭には何も無かった。
しかし、しばらくするとまた物音がした。
ガサッガサガサッ
物音がしたのは、側の木らしい。
動物なのだろうか、エリオスはしゃがんでその木を見つめていた。
ガサッ
また大きな音がして上から誰かが顔を出した。
エリオスはしゃがんだままその顔を見た。
黒いが綺麗な髪を持つ、女の子のような少年だった。
少年は周りを見渡すと、「よしっ」と呟いた。
「何がいいのだ?」
エリオスはその少年につっこんだ。
「うわぁ!」
少年は驚きの声を上げて目を丸くした。ここに人がいると思っていなかったらしい。
「城内に勝手に入ってきて何をしようというのだ?」
少年に対して冷たく言う。
少年はばつの悪さの為にかにうつむく。
「何をしに来たのか言えば、事によっては見逃してもいいぞ」
しかし少年は何も言おうとはしない。
「じゃあ人を呼ぶか。」
セリオスはわざとらしくため息を吐き、人を呼ぶ真似をすると、少年は慌ててそれを止めた。
「まっ、まてよ!言うからさっ」
少年は再び黙り込む。
「いわないのか?」
「食べ物あさりにきたんだよ!」
エリオスと同時に少年が言った。
「腹が減ってたから・・・・」
少年はいいよどむ。
「そうか、窃盗を働こうとしたのか。じゃあ、兵を呼ぶか。」
「見逃してくれるんじゃなかったのかよっ!」
少年は焦ったように怒鳴った。エリオスはにやりと笑った。
「場合によってはといっただろ?」
「なっ!」
少年が怒りを露にする。そんな少年をエリオスは楽しげに見つめていた。
「わかった、そこでまってろ。今何か食べ物を持ってきてやる」
そういうと、少年の顔が急に笑顔に変わった。
「ほんとかっ!」
嬉しそうに瞳を輝かせる少年に想わず吹き出しそうになるのをエリオスは必死でこらえていた。
「ああ、本当だ。ところでおまえ名前は何と言うのだ?」

「なあ、エリオス。」
あの時よりは大きくなった少年が、上目使いでエリオスを見る。
「わかっってる。食べ物がほしいのだろ?」
そういうと満面の笑みを浮かべてうなずく。
エリオスはその様子に苦笑を浮かべる。
「そこでまってろよ」
「おう!」
エリオスは、体だけ大きくなった変わらない彼を見て、自分もそう変わっていないことが、とてもうれしく感じた。

少年の名はソウ・リシェント、エリオスの唯一無二の親友である。